
オキシトシンとは?
オキシトシンは、自閉症スペクトラム向けに研究中の薬剤だ。
オキシトシンは脳内ホルモンで、愛情ホルモンと呼ばれる一方、集団外部の人へ冷たくなるという作用もある。
ASDはオキシトシンの血中濃度が低く、それがASDの特性の原因ではないかと見られている。
オキシトシンは、ASD向けに注目される前から不妊治療などに使われてきた。
ASDの特性と原因
オキシトシンの治験結果、「世界初 自閉スペクトラム症へのオキシトシン経鼻スプレーの治療効果を検証しました 」によると、
「その結果、面談場面での振る舞いから専門家が評価した対人コミュニケーションの障害に対するオキシトシンの効果はプラセボ効果(※4)を上回らなかった」
「また、もう一つの主な症状である常同行動と限定的興味や、視線の計測で評価した対人コミュニケーションの障害の客観的な指標については、オキシトシンの投与で改善していました」
との結果が報告されている。
つまり、ASDの特性の原因は、
- オキシトシンの血中濃度の低さ:社会性の障害、常同性、興味範囲の限定性
- 発達の偏り:コミュニケーションの障害
なのだと思う。
ちなみに、「視線の計測で評価した対人コミュニケーションの障害の客観的な指標」は、他者への興味を示す物であり、社会性の障害の範囲内だと自分は思う。
オキシトシンは、ASDの性格的な特性を消すが、能力の偏りには効果がないと思う。
ASDの男女比とオキシトシン
ASDは男性が多く、女性が少ない傾向がある。
それには、文化的な要素が原因で女性のASDが目立たないだけという説があった。
だが、オキシトシンは愛情ホルモンと呼ばれ、不妊治療にも使われる。
女性のASDが少ないのは、男女のオキシトシン分泌量に差があって、それで女性のASDの性格的特性が出にくくなっている、という可能性がある。
オキシトシンの想定用途
- 反社会的な物への拘りが原因のASD犯罪者
- 反社会的ではない拘りが原因のASD犯罪者
- 拘りによる適応障害
- 発達障害を背景とした毒親
- カサンドラ症候群
- 集団いじめの予防
上記四つの内、本人が拒否しても、強制的にオキシトシンを投与しても良いのは、1の「反社会的な物への拘りが原因のASD犯罪者」だけである。
残りのタイプには、オキシトシンの前に環境調整やSSTで治療を試みた上で解決できない場合にだけ、オキシトシン投与を検討すべきである。
また、上記四つのタイプ以外に、ASDの適応障害パターンとしては、
- 単独犯いじめ被害による適応障害
- 周囲の迫害行為が原因の問題行動
などが想定される。
だが、上記のタイプは、オキシトシンの血中濃度の低さとは、直接的な因果関係がないため、投与しても無駄である。
以下で、ASDの適応障害パターンについて解説していく

反社会的な物への拘りが原因のASD犯罪者
「ケーキの切れない非行少年たち」には、「人を殺す事」に拘りを持ってしまったASDの非行少年が挙げられている。
この場合、オキシトシンを投与する事で、「人を殺す事」への拘りを消す事が可能だと自分は思う。
そして、オキシトシンの実用化まで、反社会的な拘りが原因のASD犯罪者は、刑務所・閉鎖病棟から出してはいけないと自分は思う。
筆者もASD当事者だから分かるのだが、ASDの拘りはかなり強力であり、「説得」で変える事は不可能だからだ。
反社会的ではない拘りが原因のASD犯罪者
ダリウス・マッカラムは、電車やバスに拘りを持つASDで、ただ「電車やバスの運転を楽しみたい」というだけの動機で勝手に電車やバスを乗り回し、30回以上逮捕されている。
そして、ダリウスさんは、テストをしてみた所、現役の地下鉄運転手より豊富な知識を持っていたそうだ。
子供の頃から地下鉄に入り浸り、地下鉄運転手に教わっていたためらしい。
そのため、彼を地下鉄運転手として雇ってあげてはどうか、という提案もされたらしいが、彼に前科がある事で却下されたそうだ。
ちなみに、最初に彼が逮捕されたのは、彼が少年の時、地下鉄運転手が彼に運転させたかららしい。
そういった背景からダリウスさんは30回以上も逮捕され、人生の多くの時間を刑務所で浪費してしまっている。
彼の電車やバスへの拘りそのものは、反社会的ではないが、少年の頃についた前科のせいで地下鉄運転手へ就職できず、犯罪に繋がってしまっている。
まとめると、反社会的ではない拘りが原因のASD犯罪者は、まず環境調整を試みて、環境調整で解決できない場合、オキシトシンの投与を検討する、といった対処が望ましいと自分は思う。
拘りによる適応障害
プラモデルに拘りを持ってしまったASDの青年が就職活動をしなくなり、専門医が説得に当たったが、就職再開には7年を要した、という事例がある。
その場合、まず拘りを活かして経済自立できないかという方向性で環境調整を試み、それでも無理な場合、オキシトシンの投与を検討すべきだ。
発達障害を背景とした毒親
精神科医の水島広子医師は、著書「毒親の正体」で「毒親の多くには精神疾患があり、最も多いのは発達障害」と述べている。
そうした「発達障害を背景とした毒親」は、ADHDとASDの二タイプがある。
その内、「ASDを背景とした毒親」には、オキシトシンが有効である可能性が高い。
ちなみに、ADHD向けには、コンサータやストラテラなどの薬剤が既に開発されている。
「ADHDを背景とした毒親」には、コンサータやストラテラなどの薬剤が有効であると思う。
ただし、
- 「発達障害を背景とした毒親」向けのソーシャルスキルトレーニング(授業形式で人付き合いノウハウを教える治療)を受けさせる
- それでも解決しない場合に、薬物投与を検討
といったステップで治療を進めるべきである。
ただし、2019/12/30現在は、「発達障害を背景とした毒親」向けのソーシャルスキルトレーニングは、存在しない。
カサンドラ症候群
カサンドラ症候群は、ASDの夫を持つ妻が、うつ病に似た症状を呈する事。
カサンドラ症候群の場合、ASDの夫へのオキシトシン投与も治療法の一つとして有効だと思われる。
ただし、
- 女性の側が経済自立して離婚、という環境調整を試みる
- それができない場合に、夫へのオキシトシンの投与を検討
といったステップで治療を進めるべきである。
集団いじめの予防
東大卒の脳科学者の中野信子教授は、著書「ヒトはいじめをやめられない」で、
「いじめは、人間の本能に組み込まれている「集団の裏切り者への制裁システム」の暴走」
だと述べている。
ここからは個人的意見だが、ASDは社会性の障害で、集団の多数派に逆らってしまうため、「集団の裏切り者への制裁システム」の暴走に遭いやすいのだと思う。
そのため、オキシトシンで社会性の障害を含めた性格的な特性を消せば、集団いじめ被害には遭いにくくなると思う。
だが、ASDの社会性の障害には、集団の暴走を防ぐ役割がある。
ASDにオキシトシンを投与すれば、集団いじめの予防にはなるかもしれないが、集団の暴走が起きやすくなるという副作用が出るだろう。
故に、ASDへの集団いじめには、
- 学校においては、ホームスクールや教室への監視カメラ設置
- 職場においては、ASDに向く働き方を試す
といった対策をして、それでもダメな場合に、オキシトシンを検討すべきである。
単独犯いじめの予防
いじめには、
- 集団いじめ
- 単独犯いじめ
の二種類がある。
前述した通り、オキシトシンは、集団いじめの予防には効果がある。
だが、単独犯いじめの予防には効果がない
単独犯いじめの場合は、ASDのコミュニケーションの障害が、「付け込みやすい隙」として狙われているためだ。
例えば、心理的いじめの被害に遭うと、周囲に助けを求めても、コミュニケーションの障害が重いASDは、曖昧な心理的いじめの手口を上手く説明できず、逆にASDの方がおかしい人だと思われる事がある。
ASDのコミュニケーションの障害は、発達の偏りによる物であり、オキシトシンの血中濃度の低さが原因ではない。
単独犯いじめの予防には、ソーシャルスキルトレーニング(授業形式で人付き合いノウハウを教える治療)など、「知識」が効くと自分は思う。

周囲の迫害行為が原因の問題行動
「ケーキを分けられない非行少年たち」には、「軽度の知的障害や発達障害を持つ少年たちが、学校で壮絶ないじめに遭い、そのストレスを背景として幼女への猥褻行為に及ぶなどの問題の構造がある」と述べられてる。
「発達障害と少年犯罪」にも、「発達障害と犯罪には直接的因果関係はないが、迫害体験を第三因子とした間接的相関関係はある」といった内容が書かれているようだ。
また、「カウンセラーが語るモラルハラスメント」には、「モラルハラスメントの破裂行動」という概念が紹介されている。
心理的暴力の被害者が我慢できずに、物理的暴力で反撃してしまう、という現象の事だ。
ここからは自分の考えだが、ASDはコミュニケーションの障害で、心理的暴力に弱く、一方的に嬲られる傾向がある。
そのため、「モラルハラスメントの破裂行動」で一方的に加害者にされてしまいがちだと思う。
このタイプは、集団いじめ被害と単独犯いじめ被害の両方が混ざっていると見られる。
集団いじめ被害が原因の場合は、オキシトシンで集団いじめ被害を予防する事ができるだろう。
だが、単独犯いじめ被害が原因の場合は、オキシトシンは効果がないだろう。
どちらなのか見極める事が必要だ。
ニューロダイバーシティ
ニューロダイバーシティは、発達障害を、障害ではなく「人類の生息環境に対する適応」と考える。
アスペルガーは、100人に一人。
他の遺伝子疾患は一万人に一人などが普通であり、自閉症スペクトラムは極端に多い。
それは、アスペルガーに存在意義があり、遺伝子が淘汰されなかったからだ、とニューロダイバーシティーでは考える。
そして、ASDの存在メリットには以下の物がある。
- ASDの社会性の障害は集団の暴走を防ぐ役割がある
- 人より物に興味があるASDは、集団外部の脅威を見張る役割がある
オキシトシンとニューロダイバーシティは、正反対の考え方だ。
- オキシトシンは、ASDの性格的特性を消してしまう治療法
- ニューロダイバーシティは、ASDの性格的特性を消さず、環境調整やバリアフリーなどで共存しようという考え方
理論的には、オキシトシンは、「反社会的拘りを持つASD犯罪者」のみに限定し、他のASDは、
- 環境調整
- SST
- 発達障害者へのバリアフリーな社会制度
などで解決を試みるべきだ。
だが、実際には、オキシトシンが「反社会的拘りを持つASD犯罪者」以外にも、多く使われてしまうと推測している。
理由は複数ある。
- 精神科特例の名残で、精神科医の配置数が「1:60」と少なく、診察時間が短いため、時間がかかる環境調整よりも、薬物療法の方が好まれるため。
- 科学技術を変化させる事より、社会制度を変化させる事の方が難しいため。
- 発達障害の研究者には、理系の医師が多く、環境調整や発達障害者へのバリアフリーな社会制度のなど文系的な研究が苦手な事。
最初の内は、オキシトシンが多く使われてしまうのは仕方ないが、オキシトシンのASDへの投与にリスクがある事を認識して、対策を打ち、徐々にオキシトシンの投与率を減らしていくべきだ。
対策とは、
- 精神科医の配置数を「1:15」に
- 発達障害者へのバリアフリーな社会制度や環境調整を研究する文系の学部・学科を設立する事
などだ。
オキシトシンの投与の原則
- オキシトシン投与の前に環境調整やSSTで解決を試みる事
- 「反社会的拘りを持つASD犯罪者」以外のASDには、オキシトシン投与を強制しない事
- オキシトシンの投与の統計を取り、ASD全体の何割に投与したか、発表する事
ASD全体へのオキシトシン投与率の統計は、集団の暴走の起こりやすさを示す指標になると思う。
オキシトシンのインフォームドコンセント
オキシトシン実用化後は、ASDにオキシトシンを投与する前に、以下の事をインフォームドコンセントとして説明した方が良い
- ASDにとって大事な拘りが消えてしまう事
- 興味範囲の限定性や繰り返しの特性は、技術者などへの職業適性になる事
ASDの人にとって、自分の拘りは大切な物のため、自分の拘りを消されるのは抵抗があるだろう、と自分は思う。
少なくとも自分は抵抗を感じる。
オキシトシンが実用化された時には、インフォームドコンセントとして、拘りも消える事を説明した方が良いと思う。
本人が拒否しても、強制的にASDの拘りを消して良いのは、「反社会的な拘りを持つASD犯罪者」だけである。
オキシトシンの個人輸入はやめた方が良い
現在、外国でオキシトシンの点鼻薬が購入できるため、個人輸入をする事もできる。
だが、オキシトシンは、継続的に投与すると耐性ができて、効きにくくなってしまう。
そのため、現在、研究者らが、耐性がつきにくいよう、研究を進めている。
オキシトシンの服用は、耐性がつきにくいよう、工夫されたオキシトシンがリリースされるまで待った方が良いと自分は思う。

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